コンピュータビジョンはブランディング広告を変えるか? GumGumの挑戦 GumGum, Inc. CEO Phil Schraeder氏 / GumGum Japan K.K. Managing Director 若栗直和氏
2019/04/11

人間の目が行うこと、たとえば顔やものを判別したり、物体を認識したりするコンピュータビジョンは近年、目覚ましい勢いで進化している。それに伴い、デジタル広告の世界も劇的に変わろうとしている。その一端を担うのがGumGum。AIを活用した独自の視覚情報処理技術を持つ、カリフォルニア発の企業である。AIが記事の文脈を理解し、不適切な内容が含まれていないかを判断し、広告の配信を見極める。そうした画期的なサービスが世界各国の主要ブランドから高く評価されてきた。日本では、2017年後半から本格的に広告ソリューションの提供を開始。これまで獲得型広告が主流だった日本のデジタル広告業界はGumGumの登場により、真の意味でのブランディングに目を向け始めた。

カリフォルニア発。AIを活用した独自の広告プラットフォーム


--御社の事業モデルと現在の取り組みについて教えてください。

Phil 当社の創業は2008年。アメリカのカリフォルニアで誕生しました。AIを活用した独自の視覚情報処理技術を用いて、日々生成される膨大なビジュアルデータの持つ潜在価値を顕在化し、さまざまな課題の解決に活かすことを目標に活動を展開しています。現在は北米、ヨーロッパ、オーストラリアなど世界各国でサービスを提供しており、日本では2017年後半から広告ソリューションの提供を開始しています。

若栗 当社は、パブリッシャー(媒体社)の方々がお持ちのコンテンツを新たな広告配信面として活用。AI視覚情報処理技術を用いて配信面の文脈を識別し、文脈に沿ったクリエイティブ表現を通して、ユーザー・ブランド・パブリッシャーそれぞれに有益な環境を構築しています。現在、日本国内ではおよそ100のプレミアムパブリッシャーと連携※。新しい収益の獲得や高いユーザーエクスペリエンスの実現など、多くの面で貢献しています。

--日本市場でのビジネスを本格化した意図は?

Phil 当社にとって、日本は4番目の市場です。比較的早く日本市場をビジネスの視野に入れました。というのも、日本市場は欧米と異なる、独自の特質と可能性を持っているからです。欧米と異なり、日本のデジタル業界はこれまで獲得型広告が主流であり、ブランド広告領域にはそれほど手をかけていませんでした。しかし現在、ブランド広告領域へシフトする傾向が強まっており、私たちは日本のブランド広告市場における発展の可能性に、大きく注目しています。

--近年の広告トレンドについて、どのようにお考えですか。

Phil 世界レベルでデジタル広告を考えると、さまざまなトレンドが起きています。そうした中で、私たちが最も注力し、課題解決に大きく寄与しているのではないかと自負しているのが、ブランドセーフティの問題です。ブランドは当然、自分のブランド価値を守りたいという気持ちが強い。だから、安全かどうかわからない場所、すなわち、広告を出稿するのにふさわしくない場所に、意図に反して広告を配信してしまうことはとても怖い。これは当然ですよね。もちろん、ブランドによって「安全か、そうでないか」という基準は異なりますし、広告配信に適正と確度を求めるなら、一つ一つ、文脈を判断する必要があります。特に日本のブランドは、欧米に比べて保守的な傾向が強いため、「こういうコンテンツに広告出稿は控えよう」と考える基準が、他国と比較してもっと厳しいかもしれません。
そうした点において、当社のテクノロジーはまさに有効に機能します。たとえば、一般的な視覚情報処理技術でも、「画像内に武器が写っている」ということは把握できます。しかし、そうした認識技術を私たちの自然言語処理と組み合わせることで、世界一ブランドセーフなプラットフォームを作ることができるのです。そうした点で、当社のサービスと日本の市場は非常に親和性が高いのではと考えています。

--個人情報の取り扱いについても、現在ではますます厳しくなっています。

Phil 欧米では近年、パーソナルデータ活用のプライバシー問題についての議論が積極的に行われ、消費者の権限強化の必要性が一般に共有されてきました。特にEUは、2018年5月に一般データ保護規則(GDPR)を施行し、個人のプライバシーを保護する権利を強化していますし、こうした傾向は今後もますます強くなっていくでしょう。これまで多くの企業がリターゲティングやcookieデータの解析に注力してきましたが、今後はそうしたものへの投資が少なくなると見込んでいます。そうした中でも、当社が展開するAIを活用した独自のコンテクスチュアル広告は、ブランドが自分にとってふさわしい広告スペースを選択できる、そして、個人情報に頼ることなく効果的にターゲティングできるという点で、今後もますます多くのブランドにソリューションを提供できるのではないかと考えています。

若栗 これまで日本の多くのブランドは、獲得型広告に大きな予算を配し、ブランド広告キャンペーンにはそれほど多くを投下してきませんでした。しかし今後、日本ではブランディングがますます重要になってくると考えられます。特に、デジタル世代である若者たちは、生まれた時からインターネットをメインのメディアとして活用しています。これまでの世代は新聞やテレビなど、従来型のメディアでブランドの認知形成を行なってきましたが、今の若者たちは当然のように、インターネットでブランドに対する認知を確立させています。そうした点で、今後ますますデジタルにおけるブランディングが重要になってくると考えています。


ブランドリフト効果は10〜20%


--日本における現在の展開は?

若栗 先ほどお話しした通り、現在は約100のパブリッシャーと連携し、月間の広告配信は4億PV。リーチできるユーザー数は3,000万以上と考えています。つまり、Facebookやインスタグラムと同等規模のプラットフォームということです。
一方、ブランドのカテゴリーはさまざまであり、食品や飲料メーカーから、銀行・保険などの金融関係など多岐にわたっています。

--事例を挙げていただけますか。

若栗 最もわかりやすい事例の一つが、このANAハワイ線へのA380就航の広告です。ターゲットとして「ハワイ旅行」やトラベル関係の文脈を取り上げ、その中で、「ANAのハワイ線にA380が就航する」というニュースを出すのに、適切な文脈を判断。その記事内画像の下部にイン・イメージ広告として掲載しました。広告にはエンゲージメントを高めるためにアニメーションを採用。視認性の高いスペースへ広告を配信し、アニメーション・動画など自由度の高いクリエイティブ表現を用いることで、ポジティブなメッセージを確実に届けることが可能です。さらに、そうした自由度の高いクリエイティブ表現により、ブランドリフト効果にも力を発揮。つまり、この広告を目にした視聴者に対して、単純に「記憶してもらう」「覚えてもらう」だけでなく、ブランドに対して好意的な認知を醸成させることができるのです。
こちらのANAハワイ線へのA380就航の広告については、広告主であるANA様からも、画像認識を使った独自のターゲティング手法の面白さ、文脈識別の精度の高さ、エンゲージメントなどのパフォーマンスの良さにおいて、非常にポジティブな評価をいただいています。


--一般に、ブランドリフトの効果はどれくらいですか。

若栗 キャンペーンのメッセージや広告表現のクリエイティブ性にもよりますが、平均して10〜20%のブランドリフト効果を実現しています。ブランドリフトについて考えるときは、必ず競合に対する印象も計測することも必要。競合と比較して、イメージシェアやマインドシェアを多く獲得することができれば、市場におけるそのブランドの優位性はますます高まるでしょう。

--御社ではスポーツスポンサーシップという取り組みを行っていると聞きました。

Phil スポーツスポンサーシップとは、ブランドやライツホルダー向けに、テレビ・ストリーミング・SNS上でのスポンサーシップのメディア価値を評価・分析するサービスのこと。たとえば試合を撮影した画像や映像の場合、ホームゲームであることやロゴが含まれていることなどを認識し、さらに、「いいね!」などの数や放映された時間などからメディア価値を評価します。アメリカでは非常に成功を収めているソリューションで、放映権の保有者とブランドが意思決定をする際の共通認識となっています。まだ日本ではこのサービスを展開していないのですが、今後、時期をみて日本にも導入する予定です。日本ならではの文化や特性を配慮して、サービスの展開を決めたいと考えています。

若栗 こうした「日本ならではの文化や特性への配慮」は、あらゆる点で必要と考えています。実際、日本独自の商習慣は未だに根強く存在していますし、ある特定のビジネスが欧米で成功したからといって、それをそのまま日本に持ち込んでも、同じようにうまくいくとは限りません。あるブランドに対しては、レポーティングの頻度や回数を増やすことが求められるかもしれませんし、内容をもっとリッチにする必要があるかもしれません。そうした点を踏まえ、個別にワークフローを設定。綿密なプランニングと人的リソースの最適化を繰り返しながら、日本でのサービス展開を加速している状況です。

Phil 私はアメリカ出身なので、日本では信頼を醸成することを先に行わなければなりません。信頼やリスペクトが基盤にあるからこそ、日本でのビジネスがうまくいくのです。私たちの製品サービスや戦略ビジョンは世界的にみてどこもほとんど変わりませんが、各地域で展開させるためにそれらをローカライズさせる必要があります。そのため、ローカルリーダーシップ制を設け、私たちの商品ソリューションがその国や地域で意味を成すように調整していきたいと考えています。

デジタルにおけるブランディングの可能性を追求


--現在、広告業界が抱えている課題について、どう考えていますか。

Phil 現在、多くの企業において、広告の予算が分離されています。たとえば、予算の一部はパートナーに預ける、他の一部はソリューションに回すとか……。でも、そうやって予算を託したパートナーやソリューションは、他のライバル企業も同様のサービスを使っているかもしれず、そうなると、広告の差別化はますます難しくなってきます。また、多くの企業はデジタル広告を配信する際、ほとんど似たようなパブリッシャーを使っています。「安心できるから」という理由もあるのでしょうが、それでは広告の単価はますます高くなりますし、広告の独自性を打ち出すことも難しくなります。
その点、当社では日本で約100のパブリッシャーと連携していますが、それぞれ個性豊かな編集記事を制作していますし、また、専門的な情報を配信しているブログなど、これまであまり広告スペースとして注目されてこなかったところについても広告配信の可能性を探っています。
また、広告は全てインハウスで制作しており、各国ごとにローカルのクリエイティブチームを結成。それにより、ブランドに対してクイックなレスポンスが可能になり、自由度の高いクリエイティブを実現しています。

若栗 それから、広告の効果測定に一貫性がないという問題もあります。効果測定はどちらかというとデジタルの方がやりやすいものの、評価指標がCTRなどに終始しがちで、ブランドの認知やエンゲージメントの「質」を評価する考え方がまだ浸透していない。しかしそうした中でも、アトリビューションを測定するツールは少しずつ増えています。こうしたツールを使うことで、真の意味でブランド広告の価値を測るとともに、「デジタル広告でも効果的にブランディングができるのだ」ということを実感していただきたいと思います。

--最後に今後の展望について教えてください。

若栗 現在、日本でサービスを開始して約2年。徐々にGumGumの認知度が高まってきて、キャンペーン展開例は約150近くに上ります。これからももっと多くの方に当社のサービスを理解していただき、実際に活用していただくことで、ブランディングに貢献していきたい。同時に、パブリッシャーとの連携もますます強化して、ネットワークを拡充していきたいですね。

※2019年2月末時点

 



Phil Schraeder (フィル・シュレーダー) 氏
GumGum, Inc.
CEO


GumGumのCEO。グローバルにおける事業計画及、セールスマネジメント、財務計画、人材管理等を行う。『Adweek』『Huffington Post』等のメディアへの定期的な寄稿を行う他、2017年には『Los Angeles Business Journal』による『CFO of the Year』アワード受賞。
GumGum参加以前には、グローバル電子決済・リスク管理ソリューションプロバイダー『Verifi 』のVP of Financeとして活動。また、3Dテクノロジーライセンシング企業『RealD』、フィルムスタジオ『New Regency Entertainment』、 監査・税務・アドバイザリー企業『KPMG』等でアカウンティング・ファイナンス業務を歴任。
Northern Illinois Universityで会計学でのBachelor of Scienceを取得する他、コミュニケーションも専攻。旅行、フットボールを楽しむほか、フロリダキーズでの友人との休暇が趣味。






若栗直和氏
GumGum Japan K.K.
代表


GumGum Japanの代表 /カントリーマネージャー。2000年より、広告会社『オグルヴィ・アンド・メイザー』にて、グローバル及びアジア・パシフィック市場向けのブランディングに従事。香港・上海・東京・シンガポールなどを拠点に、『フォーチュン500』企業向けのブランド戦略・ブランディング企画・キャンペーン運営を手がける。2018年よりAI画像認識を活用した広告事業を展開するGumGum(ガムガム)の日本オフィス代表を務める。
1998年東京外国語大学英米語学科卒。